
ハルデザインコンサルティング株式会社
代表取締役社長兼CEO
宮崎 晴人
HARU MIYAZAKI
ブランド戦略コンサルタント。主な専門分野は企業、商品、人材、CSR、IR。「ブランドによる経営課題の解決」がテーマ。米国シアトルの高校卒業後、慶應義塾大学環境情報学部卒業。1999年にハルデザインコンサルティング株式会社を設立。
【ブランド戦略の威力 vol.14】
H&Mのブランド戦略
A Strong Brand.
先日、銀座に国内1号店をオープンしたH&M。
その企業が目指す姿は非常に明確です。『強いブランド』です。
年間売上1兆4356億円。
同じように、売上1兆円を越える世界的なライバルは、GAP、ZARA (INDITEX)、Limited Brandsの3社です。
その中でもH&Mは、突出した収益性を誇り、2007年度は2116億円の利益。利益は率は15%となっています。
今回は、アパレル業界の本命と言われるH&Mのブランド戦略について考えたいと思います。
H&Mが本命と言われる所以は、その収益性の高さです。
収益性が高いと何が良いのか?
それは、苦戦する競合他社が白旗をあげた時に、M&Aができるからです。事実、EU内で販売不振に陥っていたGAPが、一部地域から撤退した時に、H&Mはそのすべての店舗を買取り、比較的にシェアを伸ばしました。このような頂上決戦の中では、収益性の高い企業が、最終的にすべてを手にすることは容易に想像できるでしょう。
なぜH&Mだけが収益性に優れているのか。
高収益で有名なユニクロのファーストリテイリングでさえ、利益率は13.5%です。その利益額は791億円ですから、H&Mとは3倍近くの開きがあります。
同じSPA(販売小売)方式を駆使してビジネスモデルを洗練させて来たライバルの中で、H&Mだけが違った方法を取っていること。それはフロントの戦略。つまり、ブランド戦略です。
H&Mはライバルの中でも、自社のブランドのあるべき姿に、強烈なこだわりがあります。
特に最先端のモードやデザインへのこだわりは群を抜いており、SPA型のアパレル企業と言うよりは、メゾン型の高級ブランド企業と言った様です。
■一貫したブランド・イメージ
広告、雑誌、PRイベント、ファッションショー、コレクションなど、すべてのコミュニケーションに一貫したメッセージを持たせています。H&Mの広告は、他のライバル他社と間違いようがないほど、H&Mのスタイルを貫いています。H&Mが掲げる、"fashion and quality at the best price"を表現すべく、あたかも高級ブランドの一角であるようなコミュニケーション戦略と、実際に店舗に出向いて見る価格の安さとのギャップに、H&Mの巧みなブランド戦略が秘められています。
■創造性の追求
H&Mには100名以上のイン・ハウス・デザイナーが在籍していますが、H&Mの創造性の高さを最も有名にしたのが、著名デザイナーとのコラボレーションです。
シャネルの大御所カール・ラガーフェルドやステラ・マッカートニーと言ったモード界の第一線で活躍するデザイナーが、H&Mのために特別にデザインするキャンペーンを繰り広げています。本来、彼らのような高級ブランドのデザイナーの作品は、1点あたり数十万円はするはずにもかかわらず、H&Mでは数千円から買えるという夢のような話です。
これらのキャンペーンが示す通り、H&Mの通常商品もモードへの意識が強く、SPA型アパレル大手とは一線を画した形になっています。
H&Mは、SPA型の大手アパレル企業と位置づけられていますが、こう見て来ると、真のライバルはGAPやユニクロではなく、メゾン型の高級ブランドではないかと考えられます。
確かに、価格帯はGAPやユニクロと同じですが、アメリカン・ベーシックを主体とするGAPを好む人が、最先端モードを意識するH&Mに乗り移るには、趣向のハードルが高いからです。しかし、ドルチェ&ガッバーナやジョルジオ・アルマーニといったモード系を好む人が、H&Mを自身が保有するファッションに組み込むことは容易です。実際にコーディネートしてみても、素材の善し悪しは高級ブランドとは歴然の差ですが、一見したデザイン性はそこまで差を感じることはありません。
つまり、GAPやユニクロをはじめとした従来のSPA型のアパレル企業が、『普段着を安く買う』ことを掲げているのに対し、H&Mは、『高級ブランド服を安く買う』という考えを提唱していることが分かります。どちらが、よりバリューが大きいかは明らかです。
私は、消費者が期待する高級なイメージと、実際の価格の安さの差をバリュー・ギャップと呼んでいます。このバリュー・ギャップが大きければ大きいほど、価格設定が自由になり、利幅も大きくになります。つまり、バリュー・ギャップの大きさは、その企業の競争力に直結するのです。
私が、5年前にニューヨークのSOHOにあるH&Mを初めて訪れた時、このバリュー・ギャップの大きさに驚愕したことを今でも覚えています。
現在、日本では低収益に悩む企業が増えています。
それの理由を、不況の性にすることは簡単ですが、本当はバリュー・ギャップが縮小しているために、競争力が低下し、低収益に陥っていることに気づかねばなりません。安いからと言って売れるわけではなく、高品質だからと言って認められるわけではない現代社会が示す通り、目の肥えた消費者の心を引くには、人々が感じるバリューに焦点を定める必要があります。
モダンなイメージ、高いデザイン性、高品質で低価格。これによって、人々が感じる価値、バリュー・ギャップを最大化する。
H&Mのブランド戦略は、多くの日本企業にとって非常に参考になるヒントを与えてくれています。


