BUSINESS REVIEW
顧客ロイヤルティとブランド戦略
宮崎晴人

ハルデザインコンサルティング株式会社
代表取締役社長兼CEO
宮崎 晴人
HARU MIYAZAKI

ブランド戦略コンサルタント。主な専門分野は企業、商品、人材、CSR、IR。「ブランドによる経営課題の解決」がテーマ。米国シアトルの高校卒業後、慶應義塾大学環境情報学部卒業。1999年にハルデザインコンサルティング株式会社を設立。

【ブランド戦略の威力 vol.9】
顧客ロイヤルティとブランド戦略

先日、私は会社の社員から学びました。
社内のことで恐縮ですが、いつもと趣を変えてお話ししたいと思います。

それは、社員の知人が私どもの会社に入社を希望している、という話がきっかけでした。
誠に、ありがたいことです。私どものような小規模で、都心から外れた職場で働きたいとは、ある意味普通の感覚ではなく、貴重な心意気です。
が、残念なことに、会社は、既に今期の業績が確定しており、新入社員を採用する予算枠がありませんでした。その旨を伝えると、ある社員がこう言いました。
「可能であれば採用してあげて欲しい。そのために必要であれば、私たちのボーナスをカットしてください」
驚きました。私も会社員の時代がありましたが、その時の私と全然違う。到底、自分を犠牲にするようなことを言えないばかりか、考えもつかなかったことでしょう。

米国大手コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニー名誉ディレクターであるフレデリック F. ライクヘルド氏は、ロイヤルティについてこう定義しています。
「ロイヤルティとは、顧客や従業員などが金銭的もしくは個人的な犠牲を払ってまでも、企業とのリレーションシップを強化したいと望むことである」※

今回は、顧客や従業員とのリレーションシップを通した、ロイヤルティついて考えたいと思います。


先のライクヘルド氏は、成熟産業で成長を持続するには顧客ロイヤルティに頼るしかない、と断言します。ロイヤルティの高い顧客は、みずから無償で新規顧客を集めてくれ、企業を成長させるのです。
例えば、ある既存の顧客が、別の新規顧客を紹介してくれたとします。この既存顧客の企業に対する心理は、次のうちの3番目に位置することになります。

1)満足しているが、特に意見はない
2)機能的・経済的に大変満足している
3)自らの信用を担保にしても紹介したい

このように見ると、紹介してくれる顧客が、いかに自己犠牲の精神のもと、寛大な行動を取っているかが理解できるはずです。
先の、私どもの社員の話で恐縮ですが、万一、入社側が不出来であったり、会社側が評判通りでなかったならば、採用を進言した社員の信用に関わることです。そのリスクを取ってまでも行動を起こす。ロイヤルティの尊さを、あらためて感じます。

しかし、ロイヤルティは、コントロールができません。
それは、顧客が感じることであり、従業員が思うことです。ブランド戦略は、比較的企業側主導で進められる作戦ですが、その3大テーマの一つであるロイヤルティつくりに関しては、イニシアティブは相手にあるのです。意図的につくろうとして、出来上がるものではないのです。さらに、ロイヤルティがあるからと言って、直近の売上高に貢献するとも限りませんから、企業側として大変取り組みにくいテーマの一つです。
しかし、ライクヘルド氏は、こう言います。
顧客ロイヤルティさえ確保すれば成長できるとは限らないが、顧客ロイヤルティが低い企業が利益成長を遂げることはまずない」
彼の長年の調査によると、熱心な支持者が顧客全体に占める比率は、ほとんどの業界で成長率と直接関係している、と判明したそうです。

では、ロイヤルティとは、どのようなことがきっかけで、生まれてくるのでしょうか。
ライクヘルド氏は、企業トップが重要だと言います。トップが、ロイヤルティに基づくリレーションシップを目指す必要があると。なぜなら、ビジネスの性格上、すべては収益性を追求する活動であり、これを究極に突き詰めると「人よりも金を重視する血の通わない組織」が出来上がってしまうからです。これを防ぐには、企業トップ自身の人間的な姿勢が鍵になります。
トップと従業員のリレーションは、その先の従業員と顧客のリレーションに引き継がれます。これが顧客と企業のリレーションになり、最後はロイヤルティとして跳ね返ってくるのです。収益性を高めるという大義名分のために、従業員に圧力をかけ、サプライヤーに無理を言い、顧客から搾り取る。このような理性が欠如した企業が、長期的に成功するはずがありません。企業トップは、自らの信念や正義を明確にし、かつ、思っているだけでなく、メッセージとして各ステークホルダーに発信することが重要です。
こう考えますと、どこかブランド・アイデンティティの構築手法と似ており、やはり、ロイヤルティつくりはブランド戦略の一環であることがわかります。

さて、冒頭の話の続きが気になるところですが、結局、入社してもらうこととなりました。もちろん、社員のボーナスをカットすることはしません。
しかし、ビジネスとは本当に奥の深いものであり、いつまでたっても自分たちの未熟さを感じます。数字を追いかけているだけでは、成功しない。だからこそ、ビジネスの面白さ、取り組み甲斐を見つけることができるのだと思います。
私たち人間にとって、働くことの喜びは、ロイヤルティにあると言っても、過言ではないでしょう。


※参考文献:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部 『儲かる顧客のつくり方』 ダイヤモンド社 2007年

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