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【ブランド戦略の威力 vol.8】
A380とシンガポール航空のブランド戦略

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筆者近影

宮崎 晴人(ハルデザインコンサルティング株式会社 取締役会長)

2008/05/27

「最新鋭の翼とやさしいおもてなし」。
シンガポール航空のブランド・コミットメントです。
そのシンガポール航空が、文字通り「最新鋭の翼」、エアバスA380を導入し、先日、東京-シンガポール間を就航しました。総二階建て、650席(最大850席)、構想から16年を費やした世界最大級の旅客機です。その桁外れの機内の大きさから当初は、客席の他にラウンジやエンターテイメントルームも併設されるのでは、との噂がありました。しかし、シンガポール航空が取った戦略は、ファーストクラスを越える完全個室『スイートクラス』を設けることでした。高級ホテルのような贅沢なリネンと、一流の料理、そしてきめ細やかなサービスとともに。
今、航空業界は、その歴史の中で最も厳しい競争に直面しています。高騰する燃料、激しい価格圧力、成熟による差別化要素の欠落。顧客の目から見ると、ほとんどの航空会社のブランドは基本的に同じであり、新鮮さも活力も感じない状況にあります。その価格競争が支配する業界に、一筋の光を注いだのが、A380とシンガポール航空の挑戦です。これにより、今後の航空ビジネスには、新しいニーズの広がり出て来ると考えられます。

今回は、A380によってシンガポール航空のブランド戦略が、今後どう強化されて行くのかを考えたいと思います。


度重なる納入延期でメディアを賑わせ、本当に完成するのかと言われ続けた、エアバスA380。
その期待値の高さもあってか、第一号を就航させたシンガポール航空にも、世界中の注目が集まりました。
シンガポール航空は、いち早い最新鋭機の導入で有名な航空会社です。保有機就航年数も平均約5年と、業界でも大変短いサイクルを誇っています。また、高いサービスレベルにも定評があり、安全性、快適性、ともにトップレベルのブランドと位置づけられています。
先のブランド・コミットメントに見られるように、シンガポール航空が、最新鋭機と高いサービスにこだわる背景には、独自の弱点があるためです。それは、路線です。シンガポールは、人口430万人の小さな国。アジアの経済拠点とは言え、実際にシンガポールを行き来する人は限られています。したがって、その利用用途は、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアを繋ぐ中間経由基地としての役割になります。たとえば、日本からヨーロッパに行くには、直行便もありますが、多少時間がかかるものの、シンガポール経由で行く方法もあるのです。しかし、単に時間がかかるだけでは、全ての人が直行便を選んでしまいます。シンガポール経由に振り向いてもらうためには、何か特別なメリットが必要です。それが、「最新鋭の翼とやさしいおもてなし」です。

シンガポール航空のA380機で、最も注目すべきは『スイートクラス』です。
ファーストクラスを越える席。そのような席は、これまで世の中に存在しない未知の席です。12室限定のこの個室は、スライドドアで仕切られた完全なプライベート空間をつくり、シートは独立型のベッドに変身。ベッドメイキングもしてくれると言いますから、至れり尽くせりです。ジバンシーのリネンとパジャマ、フェラガモのアメニティなど、高級ブランドとのコラボレーション。一流シェフの食事はブランド食器で運ばれ、ドン・ペリニョンやクリュッグといった世界屈指のシャンパンが楽しめる。飛行機の常識を超えた、空飛ぶ高級ホテルと呼んだ方が正しいでしょう。

このスイートクラス。どれほど素晴らしい体験を約束してくれるのか。一度乗ってみたいと思う人は、世界に大勢いることでしょう。そのためのシンガポール経由であれば、飛行時間の問題は、逆に、優雅で特別な旅に置き換わるはずです。しかも、スイートクラスは、エアバスのA380の生産遅延で、当分の間はシンガポール航空が独占する貴重なサービスになる予定です。このあたり、運が良いのか、それとも全てを見越した戦略なのか。いずれにしても、A380=シンガポール航空=世界初の『スイートクラス』という、強烈なブランド・メッセージを世界に知らしめたことは事実です。

今回のスイートクラスに関して、ブランド戦略的に優れた点が2つあります。
まず第一に、ファーストクラスの上にもう一つクラスを作った、という点です。人間は、絶対的な価値判断はできません。何が素晴らしくて、何がそうでないのか。明確に判断できる人は僅かです。しかし、「ファーストクラスよりも上」ということであれば、大方の人は想像が付くのではないでしょうか。どれほどスイートクラスが特別な体験なのかを。これが、当初の噂通り、ラウンジなどにスペースを使っていたとしたら、全く価値判断が出来なかった可能性があります。比較対象としてファーストクラスを用いたところがポイントです。
もう一つは、これでシンガポール航空は世界で唯一スイートクラスを持つ航空会社になり、会社全体のプレミアムが上昇したことです。いわゆるフラッグシップ戦略です。これまでシンガポール航空を知らない人でも、今回のA380とスイートクラスの報道により、高いレベルのブランドであると、多くの人々が再定義したことでしょう。今後、他の航空会社も順次A380を導入予定ですが、仮に他社でスイートクラスを設置しても、シンガポール航空ほどのインパクトを出すことは無理でしょう。一番に挑戦した者が、すべての名声を持って行くのです。

路線の弱点が、他社との明確な差別化を促し、ブランド強化につながった。
価格競争に明け暮れる航空業界において、非常に興味深い事例です。もし、シンガポール航空に路線の弱点がなかったら。もしかしたら、同社のブランド・コミットメントも変わり、他社同様に価格競争をしていたかもしれません。自社の弱点に向き合い、それを克服するほどの価値提供を考えることで、自ずと差別化が実現され、ブランドが強化される。そのような意味では、どのような企業にも、今以上にブランドを強化するチャンスは、いくらでもあると言って良いと思います。

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