
ハルデザインコンサルティング株式会社
代表取締役社長兼CEO
宮崎 晴人
HARU MIYAZAKI
ブランド戦略コンサルタント。主な専門分野は企業、商品、人材、CSR、IR。「ブランドによる経営課題の解決」がテーマ。米国シアトルの高校卒業後、慶應義塾大学環境情報学部卒業。1999年にハルデザインコンサルティング株式会社を設立。
【ブランド戦略の威力 vol.6】
フラッグシップ戦略でステイタス性を創る
一杯、2万1000円のカクテル。
先日、ホテルオークラ神戸が、市内で開かれるルーブル美術館展にあわせて発表しました。フランス産の高級コニャック、ルイ13世を使ったオリジナルカクテルです。
「こんな高額なものを頼む人がいるのか」
と思われる方もいると思いますが、答えは、頼む人はいません。では、なぜ、ホテルオークラ神戸は、このような発表を行ったのか。彼らの狙いは別にあるからです。
少なくとも、この企画は、2つのことを達成しています。
1つ目は、常識はずれの価格設定によって、多くのメディアが興味を持ち、記事になりました。人が驚くようなニュースを自ら創作することで、無料の宣伝を行ったのです。良く見かけるPRの方法です。
2つ目は、誰も頼まない2万1000円のカクテルですが、ホテルとしての格を上げることに役立ちます。高級な演出ができることを示すことで、ホテルオークラ神戸のステイタス性を強化することになります。実は、4ヶ月前には、名古屋東急ホテルが同様のルイ13世のカクテルを、一杯5000円で発表しました。これは、実際に飲んで頂くための価格設定であることが分かります。しかし、ホテルオークラ神戸は、あえて普通の人が手が出ない価格を打ち出すことで、プレミアム感の創出を狙ったのです。
さて、今回は、ブランドのステイタス性を築くための手法について考えたいと思います。
ステイタス性を築く手法を、私は、フラッグシップ戦略と呼びます。
自社のブランド・ポートフォリオ内に、あえてフラッグシップとなる商品を据え、全体のプレミアムを向上させる戦略です。分かり易い事例は、ホテルのスイートルームです。
どれほど高額なスイートルームが用意できるかが、そのホテルの格を表すと言います。プレジデンシャル・スイート(他の呼び方をする場合もあります)は、最も高額な部屋で、通常1泊100万円。最高級ホテルでは、1泊200万円~250万円となります。
「そんな高い部屋に誰が泊まるのか」
と思われるでしょう。しかし、先のルイ13世のカクテル同様、日常的に宿泊してもらわなくて良いのです。実際に、有名ホテルに本日のプレジデンシャル・スイートに空きがあるか聞いてみて下さい。多くの場合、空いていると思います。つまり、ホテルのステイタス性を高めるために保有をしている部屋なのです。
では、空きがもったいないから全てリーズナブルな価格で販売したらどうでしょう。これがビジネスホテルです。効率は高まりますが、ステイタス性は消え、競争のポイントは機能と価格に重点が置かれます。同じホテル業界ですが、全く違う戦い方になります。
このフラッグシップ戦略。よく見ると、意外に幅広い業界で展開されています。
輸入車業界では、ベンツのSクラス、BMWの7シリーズ、アウディのA8は、いずれもフラッグシップ・カーと呼ばれるラインです。しかし、各社にとって、これらの車種は、主力ブランドではありません。ベンツの最販売車種は、Eクラス。BMWの中心顧客は、3シリーズのオーナーです。そして、BMWが1シリーズに力を入れているように、各社とも低価格戦略車を充実させる方向にあります。合理的に考えれば、これらのコア・ターゲットに経営資源を集中するべきでしょう。しかし、ブランド戦略を熟知している彼らにとって、最上級車の存在は、ブランドのステイタス性を維持するために、どうしても必要な道具なのです。仮に、BMWが3シリーズだけに絞ってしまうと、国産車やアルファロメオと比較され、ブランドの強さが半減してしまうでしょう。
ルイヴィトンにおける、マーク・ジェイコブスのブランド・ラインもフラッグシップ戦略です。彼が生み出す奇抜なバッグは、実用性に欠け、普通の人は買いません。しかし、彼の作品が究極のポジションを取ることで、他のLV商品にプレミアム感が広がり、全体のステイタス性が高められています。
クレジットカードや航空会社のポイントカードなども、簡単ですが、フラッグシップ戦略が使われています。アメックスのブラックカードは、有名なフラッグシップ・カードであり、JALマイレージバンクにおいても、クリスタル、サファイヤ、ダイヤモンドと、利用頻度によってサービスに差が付けられています。
このように、自身のブランド内で垂直なライン・アップを用意することで、誰でもフラッグシップ戦略を用いることが可能です。
売上が伸びない、商品の魅力が落ちて来た、などの状況に直面している場合は、この手法を試されると良いと思います。その場合に重要なことは、上に向かってライン・アップを作ることです。下に向かって作ると、既存商品がフラッグシップになるため、全体のブランド価値が下がります。今、主力で売っている商品よりも、上位の商品を作ることがポイントです。いずれにしても、フラッグシップ商品は、そうそう売れません。しかし、既存商品との対比が明確になり、逆に今売っている主力商品に割安感が生まれてきます。こうなれば、ブランド全体のステイタス性が高まる上に、既存商品の活性化にも役に立ちます。 不思議な現象ですが、これが私たち人間の感覚なのです。世界中で行われているブランド戦略では、あえて顧客の上を行く、フラッグシップ戦略が使われています。


