ホーム > Webビジネス戦略レビュー > 【ブランド戦略の威力 vol.4】 ジャガー買収に見るインド・タタ自動車のブランド戦略

Webビジネス戦略レビュー

WEB BUISINESS STRATEGY REVIEW

【ブランド戦略の威力 vol.4】
ジャガー買収に見るインド・タタ自動車のブランド戦略

Google+
筆者近影

宮崎 晴人(ハルデザインコンサルティング株式会社 取締役会長)

2008/04/03

イギリスの伝統を誇る自動車ブランド、ジャガーとランドローバー。
先週、インドのタタ自動車が、不振が続くフォードから23億ドルで買収しました。そして今週、タタ自動車は、今夏にも東京証券取引所に上場予定であることが判明しました。資金調達規模は1000億円を越えると言われています。

タタ自動車と言えば、今年初めに28万円の超低価格自動車の発表をした、大手財閥タタ・グループの自動車部門です。グループの総帥であるラタン・タタ氏は、フォーチュン誌の"25 most powerful people in business"において、2007年に最も影響力のあった人物として、19位にランキングされています。25位のルイヴィトン・モエ・ヘネシー会長のベルナール・アルノー氏を越えてのランキングであることを考えると、世界的にも相当な存在感が出て来ている人物です。

欧米の歴史あるブランドを、次々と買収する新興国の企業グループ。
今回は、インド・タタ自動車のブランド買収を通して、新興国企業が展開するブランド戦略の勝算について考えたいと思います。


インド国内において、あらゆるビジネス領域で展開し、常にその上位に君臨するタタ・グループ。
自国のすべてを手にしたラタン・タタ氏にとって、次なる野望は、当然ながらインド国外への挑戦です。すでに鉄鋼分野では、昨年の英鉄鋼大手コーラス買収で大きな注目を集め、メジャーの仲間入りを果たしました。今後は、自動車分野での世界進出を成功させるにあたり、ラタン・タタ氏がどうしても手に入れなければならない武器が、『ブランド力』です。

人は、知らないものは買わない---
これは世界共通の人間の深層心理であり、ブランド構築の基本的な考え方です。
インド国内であれば、業界2位のタタ自動車の名を知らない人は少ないはずです。しかし、国外から見れば、自動車メーカーとしては小規模な企業(売上高8000億円)であり、最も世界の注目を得た28万円の超低価格乗用車の発表が、多くの人がその名前を知った最初の機会でしょう。これまでも韓国の自動車メーカーとの提携や、ニューヨーク市場への上場など、タタ自動車に関する情報は度々あったものの、世界に激震を与えたニュースは先の超低価格車のプレス発表です。したがって、タタ自動車の認知は、極々最近、世界で始まったと言って良いでしょう。
しかし、今後、28万円の超低価格車を世界各国で販売するにあたり、さらなる知名度と、信頼感を得て行く必要があることは明らかです。つまり、ブランド力の向上です。そのツールとして最適だったのが、今回のジャガーとランドローバーというプレステージ自動車メーカーの買収であると考えられます。この2つのブランドの補充により、世界の自動車業界の中で『知っている感』を創出し、タタ自動車をグローバル・ブランドとして認知させて行く、大きな一歩を踏み出すことが可能になります。

また、この買収作戦は、今後予定されている東京証券取引所への上場にも好影響をもたらすはずです。新しく得たブランドの知名度を大いに活用し、日本国内での資金調達をスムーズに進めることができます。つまり、ブランド力の強化は、各国での売上高に貢献するだけでなく、資金調達も容易にさせます。調達資金を、次のブランド買収に投入することで、さらなるブランド力の向上を生み出し、それをテコにまた次の資金調達を行う。ブランド戦略を利用したエクイティファイナンスが成立します。

さて、このタタ自動車ですが、どこまでブランド買収を重ねて行くつもりなのか。
ブランド・ポートフォリオの観点から見ると、ジャガーとランドローバーのブレシテージブランドは、自動車の購買層におけるトップレイヤーをカバーします。一方、28万円の『ナノ』ブランドはボトムレイヤーを独占する勢いになるでしょう。したがって、ブランド・ポートフォリオとして完成させるには、今後はミドルレイヤーを狙えるブランドの補充が必要です。今夏に予定されている東京市場への上場も、日本のミドルレイヤー向けの自動車メーカーへのM&A攻勢では、との声も聞かれます。同じ日に、トヨタがスバルへの出資を最大17%に引き上げる方針を発表したことも、単なる偶然でしょうが、非常に興味深いタイミングです。いずれにしても、タタ自動車が、日本の自動車メーカーに興味あるか否かにかかわらず、近い将来ブランド・ポートフォリオの足りない部分をM&Aで足して行くことは、理論上、最も起こりうることと言えます。

一方、今回買収したジャガーなどの慢性的な赤字会社の再建を、疑問視する声もあります。
ブランド・ポートフォリオが完成するまで、タタ自動車のM&Aは繰り広げられることが予想されますが、その過程において買収したブランドが依然と赤字を出し続けるようでは、資金調達とブランド戦略の好循環が終わる日が来るだろう、という意見です。
このような見方に対し、中国Lenovoによる、IBM ThinkPadの買収事例が、一つの参考になります。買収後のThinkPadは、中国国内の旺盛な需要により、Lenovoが当初予想した以上の好業績をあげています。今回のジャガー再建も、右肩上がりのインド国内の需要をダイレクトに掴むことで、誰も成し遂げなかった黒字化が実現することさえあります。これら世界第一位と第二位の人口を誇る2大新興国の需要は、これまで世界が出会ったこともないほどのスケールであり、サブプライム危機で多少の水が差されたとしても、これで終わるはずはありません。逆に、サブプライムで引き上げられた投資資金が、再び向かう先は間違いなく、世界で最も高い成長を遂げている新興国でしょう。このような背景から考えても、タタ自動車のブランド買収戦略には追い風が吹いており、大きな勝算があると言えます。タタ自動車が、そのブランド・ポートフォリオを完成させる日は、私たちの想像以上に早く訪れるかも知れません。

READ MORE

美白生活 2015年10月オープン あなたのシミのお悩み解決します。

MEMBERSHIP

Webビジネス戦略レビュー会員

メールアドレスをご登録いただくと、最新のWebビジネス戦略レビューをメールでお知らせするサービスです。

お名前

メールアドレス

MOST VIEWED

【経営課題とブランド戦略vol.2】
ルイ・ヴィトンのブランド戦略に学ぶ(前編)- 商品の価値を高めるには -

【IT時代のブランド戦略 vol.02】
スターバックスのブランド戦略がこれからも勝ち続ける理由

【ブランド戦略の威力 vol.14】
H&Mのブランド戦略

【経営課題とブランド戦略 vol.3】
ルイ・ヴィトンのブランド戦略に学ぶ(後編)- 商品の価値を高めるには -

【IT時代のブランド戦略 vol.05】
日本酒「獺祭(だっさい)」のブランド戦略

【ブランド戦略の威力 vol.11】
なぜスターバックスは減速し始めたのか

【経営課題とブランド戦略 vol.6】
後発企業でも勝てるポジショニング戦略

30兆円の巨大市場、米国住宅リフォーム業界を狙う「Houzz」

【IT時代のブランド戦略 vol.06】
H&MとユニクロはUS市場を取れるか

実物の法律書類をオープンソースにしてしまう、法律業界の革命児Docracy

INDEX

教育・研究機関

公的機関

ファッション業界

フード業界

旅行業界

自動車業界

IT・家電業界

ネット業界

金融業界

健康・スポーツ業界

医療

海外事例

Webビジネス戦略理論

ブランド戦略理論

Keywords

ブランド戦略用語解説

▲ページトップへ