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【経営課題とブランド戦略 vol.5】
ブルーオーシャン戦略とブランド戦略(後編)

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筆者近影

宮崎 晴人(ハルデザインコンサルティング株式会社 取締役会長)

2007/11/09

ブルーオーシャンと言えども、ライバルが押し寄せれば、いずれレッドオーシャンになるのではないだろうか。
また、レッドオーシャンに陥ってしまってから、再びブルーオーシャンを発見することは可能なのか。

ネット検索で、『ブルーオーシャン戦略』と引いてみると、任天堂のWiiの話が出て来ます。
ブルーオーシャン戦略』の著者である、W・チャン・キム氏も、Wiiはブルーオーシャン戦略を見事に実現していると評価しているようです。確かに、 Wiiは、競合他社と全く違う発想を持ち、従来のゲーム業界での競争を無意味化してしまいました。また、これまでゲームをしなかった子供や大人も興味を示し、顧客層を大きく広げたことが、現在の任天堂の成功に結びついています。

しかし、現時点ではWiiの突出ぶりが目立ちますが、いずれライバルが同様の発想を備えたゲーム機を投入しないとは言い切れません。むしろ、ソニーもマイクロソフトも、次回発表のゲーム機の目的として、Wiiが開拓した新たな顧客層を狙いに行くことが、一般的なマーケティング戦略になるでしょう。そうなると、今回のブルーオーシャンは、市場の競争原理から、時間の問題でレッドオーシャン化してしまうのではないでしょうか。
前回お話しした、スターバックスも、同様の道を辿っています。

今回は、任天堂のWiiにように、レッドオーシャンの中からブルーオーシャンを発見するには、何を手がかりにすれば良いのか。そして、ライバルの追随を許さず、ブルーオーシャンを守り通すには、どうのような行動が必要なのかについて、ブランド戦略の視点から考えてみたいと思います。


任天堂は、いかにしてWiiという、ブルーオーシャンの発見に至ったのか。
その内情は誰も知ることはできませんが、仮説として以下のようなストーリーが想像できます。

まず、Wiiの投入以前のゲーム業界は、ライバルとの熾烈な競争により、すっかりレッドオーシャン化していました。ハイスペックなCPUを搭載したゲーム機の開発。それに伴い莫大な投資が必要な高機能ゲームソフト。コストの増大にもかかわらず、価格競争は熾烈さを極めていました。まさに、負のスパイラルに陥っていたのです。明日倒れるのは、我が身ではないか。そう考えつつも、目の前の競争に打ち勝たなければ、誰もが先がないと信じていた時代です。ゲーム業界のレッドオーシャンとは、文字通り、消耗戦の様相を強めていました。
このままでは、業界自体がダメになってしまう。
このような状況下で、任天堂は、全く従来と異なる発想で、ゲーム業界に新たな道を切り開くことはできないか、と考えたはずです。新しい価値を提供し、これまでの競争を無意味化する方法。つまり、ブルーオーシャン戦略です。

問題は、どこから手をつけるべきか、という点です。
全く新しい取り組みには、リスクが伴います。青い海を探す作業は、いつしか『青い鳥』を探す旅となり、いつ発見できるか見当もつかない迷路に入り込む可能性があります。また、仮にブルーオーシャン市場を発見したとしても、実行してみるとオンリーワン企業になるどころか、ロンリーワン企業(つまり、想定したニーズが得られない状況)に陥る場合も否定できません。全くの新しい市場を探すことは、トレジャー・ハンターさながらの犠牲が伴います。踏み出すには、勇気以外に、確たる『信念』が必要です。

私は、その『信念』を、任天堂は自身のブランド・アイデンティティに求めたのではないか、と考えています。つまり、これからブルーオーシャン戦略を仕掛けるにあたり、その根拠となる理由を、社会における自社の存在意味に対して、もう一度向き合うところから始めたのではないか、ということです。これは、ブランド戦略の基本である、ブランド・アイデンティティの再定義です。
任天堂は、もともとは、トランプや花札といった、大衆的な遊び道具を提供していた企業です。子供から大人まで、誰でも楽しく遊べる玩具。これが、この企業の原点であると言えます。しかし、ゲーム業界の競争に明け暮れる中、いつしかその製品は、一部のゲームマニアのために生産することとなってしまいました。ゲームの高度化とともに、顧客の専門性が高まり、ターゲットも狭まっていきます。この流れは、任天堂の原点とは、大きく異なる方向にあります。
もう一度、原点と向き合う。子供でも大人でも、ゲーム好きでもゲームをしなかった人でも、誰でも楽しめる製品を生み出す。それが、任天堂として本来あるべき姿であり、社会で存在する意味なのではないだろうか。その使命感と信念が、社運を賭けたブルーオーシャン戦略の挑戦、つまり、Wiiの開発に至ったと考えられます。

この任天堂のケースは、私たちにブルーオーシャン戦略を行う手がかりを教えてくれています。
ブルーオーシャン戦略を行うにあたっては、自社のブランド・アイデンティティを再定義する』ということです。社会的な存在意味を問い、それを突き詰めた先に、青い海がある可能性があります。

これは、Wiiに限った話ではありません。
以前レビューで取り上げた、ポルシェ。経営危機に陥っていた同社に就任したヴェンデリン・ヴィーデキング氏は、『クルマの本質とは何か』に向き合い、壊れないスポーツカーの地位を確立しました。これが、ポルシェの顧客層を大幅に広げたばかりでなく、ビジネスエリートが通勤に選ぶプレステージ・スポーツカーであれば、ポルシェ以外に選択の余地がない独占状況を作り出しました。これも、ブルーオーシャン戦略です。
また、アップルは、スティーブ・ジョブズ氏の帰還により、再びブランド・アイデンティティを取り戻し、iPodというブルーオーシャンを築き上げました。技術の追求よりも、優れた発想で勝負するという点で、Wiiの例に非常に良く似ています。ともに、社会にとって必要なことは、技術者の目線ではなく、消費者の目線であるということを、証明した製品です。

最後に、ブルーオーシャンを維持するには何が必要か、という話です。
これは、アップルのケースが参考になります。
以前、トレンドにはリズムがあるという話をレビューで取り上げました。【イノベーション】→【類似品】→【発展版】→【さらなるイノベーション】という流れです。ブルーオーシャンは、このトレンド内の【イノベーション】にあります。【類似品】から【発展版】は、レッドオーシャンです。
アップルが未だに衰えない理由は、レッドオーシャンになる前に、次々とイノベーションを起こしてしまうことです。つまり、他社が追随しようとしても、アップルの方が先に新製品を出してしまい、競争自体が無意味化する状況です。この実行には、自らトレンドを引っ張り、コントロールする、優れたマーケティング技術の他に、スピードが必要です。私は、このスピード感が、ブルーオーシャンを維持する鍵ではないかと考えています。そして、このスピード感がある企業としてのブランド・イメージは、多くの人々から期待を得て、熱狂させ、ファンにさせていく力もあります。

今回は、ブルーオーシャン戦略を行うにあたっての最初の手がかりを、ブランド戦略の視点から考えてみました。
ブルーオーシャンはどこにあるのか。それは、意外にも、自身のアイデンティティの中に存在するのかも知れません。


参考文献:W・チャン・キム、レネ・モボルニュ 『ブルーオーシャン戦略』 ランダムハウス講談社 2005年

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