
ハルデザインコンサルティング株式会社
代表取締役社長兼CEO
宮崎 晴人
HARU MIYAZAKI
ブランド戦略コンサルタント。主な専門分野は企業、商品、人材、CSR、IR。「ブランドによる経営課題の解決」がテーマ。米国シアトルの高校卒業後、慶應義塾大学環境情報学部卒業。1999年にハルデザインコンサルティング株式会社を設立。
【経営課題とブランド戦略 vol.4】
ブルーオーシャン戦略とブランド戦略(前編)
ブルーオーシャン戦略。
仏欧州経営大学院のW・チャン・キム氏とレネ・モボルニュ氏が提唱する、『競争のない新しい価値を創造する』ための戦略です(*1)。この発想が、世界中の多くのトップ・マネジメントの心を掴んでいます。その背景には、競争に明け暮れる現代企業の行く末に、誰しも少なからず不安を抱いているからに他なりません。グローバル化によるコストダウン、社会の成熟化によるモノ余り現象。このような薄利多売を助長する市場環境に対して、何らかの対策を打つことはできないのだろうか。その答えの一つが、ブルーオーシャン戦略だと言えます。
しかし、『競争のない新しい価値』を、本当に創ることができるのでしょうか。
ブランド戦略の世界的な権威である、デービッド A. アーカー氏は、競争がない市場は存在しない、と言います。
「例外はおそらくパナマ運河の管理会社ぐらいであり、競合企業の不在を謳歌している企業はほとんどない」(*2)
価格競争に抵抗するには、ブランド構築しか方法はない、と言います。
ブルーオーシャン戦略なのか。それとも、ブランド戦略なのか。
皆がブルーオーシャンに移行したら、そこはレッドオーシャンになってしまうのではないだろうか。
今回は、『競争のない世界』という、誰もが憧れる理想郷は本当に創造可能なのかについて、ブルーオーシャン戦略とブランド戦略の双方を照らし合わせ、その実現性を考察したいと思います。
ブルーオーシャン戦略が、2005年に発表されて以来、多くの支持を集めた理由として、容易に理解できる素晴らしい視覚的な表現があげられます。
ブルーオーシャンとは、競争のない穏やかで広大な恵みを秘める青い海を象徴し、対するレッドオーシャンとは、凄まじい競争の末に血で染まった赤い海を表しています。この2つの海のどちらが好きかと聞かれれば、子供でさえも青い海と答えるでしょう。この分かり易さが、ブルーオーシャン戦略をより身近な話題として捉える助けとなっています。
さて、ブルーオーシャン戦略が提唱する『競争のない世界』は、誰しも夢見る理想郷です。多くの人は、そのような世界が存在すること自体、考えもし得なかったことでしょう。実際に、ほとんどの企業は、何らかの競争にさらされており、そこで働く人々は、その日々の競争に打ち勝つことに、明日の生活がかかっています。このように身をすり減らしながら前進する自身の姿に、ため息がこぼれることもあるでしょう。しかし、それも無理はありません。その多くが、レッドオーシャンにいるからだと、ブルーオーシャン戦略は説明しています。
では、どのようにしたらレッドオーシャンに別れを告げ、ブルーオーシャンに移行できるのでしょうか。
1987年にハワード・シュルツ氏によって展開を開始したスターバックスコーヒーは、まさにブルーオーシャン戦略で言う、『新しい価値の創造』を実現した企業です。当時、私もシアトル(スターバックス発祥の地)に住んでいましたので、スターバックスの店舗がみるみると広がって行く様を、この目で見ていました。それは、コーヒーの味においての革命にとどまらず、アメリカ人のライフスタイルを大きく変えた、イノベーションそのものでした。それまでのコーヒーは、いわゆるアメリカンコーヒーと呼ばれたもので、カップの底が見えるほど色が薄く、お世辞でもおいしいとは言えないものでした。私のアメリカ人の友人は、よく、日本のコーヒーは濃くてうまい、と言っていたことを覚えています。したがって、アメリカの人々も、アメリカンコーヒーがうまいから飲んでいたのではなく、それしかなかったからどうにも仕方がなかったことが分かります。
このような隠れたマーケットニーズに対して、ハワード・シュルツ氏は本場イタリアのエスプレッソにヒントを得た濃くて香り高いコーヒーを投入し、圧倒的な支持を集めることになったのです。今考えると、これがブルーオーシャン戦略の第一歩と捉えることができます。
また、ハワード・シュルツ氏は、もともとマーケティングの専門家でしたから、マーケット分析によって潜在的なニーズを見抜き、個性的な店舗デザインと独特の香り高いコーヒーの味が生み出されたのだと考えられます。その意味では、徹底的な調査と差別化が功を奏した結果であり、これはブランド戦略であるとも言うことができます。
したがって、ブルーオーシャン戦略とブランド戦略には、共通点があることが推測できます。
しかし、ここで一つの疑問が出て来ます。
皆がブルーオーシャンに移行したら、そこはレッドオーシャンになってしまうのではないだろうか、という点です。
スターバックスコーヒーの成功を目の当たりにした他の企業は、我れ先にと、ハワード・シュルツ氏が創ったこの新しいマーケットに乗り込んで来ます。タリーズコーヒーやシアトルズ・ベストコーヒーが、その代表格です。そして、瞬く間に、スターバックスに次ぐ地位を確立することとなり、市場競争が始まります。日本においても上の2社に加え、ドトールのエクセシオール・カフェ、JR東日本のBECK'Sなど、スペシャルティ・コーヒー市場はもはやブルーオーシャンではなく、明らかなレッドオーシャンへと変貌を遂げます。
このように、ブルーオーシャンの時期は一瞬であり、参入企業によってはレッドオーシャン化してしまうこともあるのです。もちろん、コーヒーショップという業態が、参入壁が低く、知的財産の法的保護もできないため、そもそもレッドオーシャン化しやすい、ブルーオーシャン市場だったことも否定できません。
しかし、スターバックスの例は、むしろ、今日の多くの企業が抱えている課題です。つまり、スターバックスは、この先、この熾烈な競争状態の中から、再度ブルーオーシャン戦略を取ることができるのか。全世界に5000店舗という企業規模のしがらみを拭い捨て、『競争のない新しい価値』を創造できるのか、ということです。レッドオーシャンになったとは言え、現在のコーヒービジネスを捨て、新たにブルーオーシャンを探すことは、効率的とは言えないでしょう。そのようなことをしていたら、キリがありません。したがって、何としても現在のレッドオーシャンを、ブルーオーシャン化する方法が望まれます。
解決の糸口は、ブルーオーシャン戦略の要素と、ブランド戦略の要素を融合させるポイントにあります。
次回は、この視点からお話しを続けたいと思います。
(*1)参考文献:W・チャン・キム、レネ・モボルニュ 『ブルーオーシャン戦略』 ランダムハウス講談社 2005年
(*2)参考文献:デービッド A. アーカー 『ブランド・リーダーシップ』 ダイヤモンド社 2000年
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