
ハルデザインコンサルティング株式会社
代表取締役社長兼CEO
宮崎 晴人
HARU MIYAZAKI
ブランド戦略コンサルタント。主な専門分野は企業、商品、人材、CSR、IR。「ブランドによる経営課題の解決」がテーマ。米国シアトルの高校卒業後、慶應義塾大学環境情報学部卒業。1999年にハルデザインコンサルティング株式会社を設立。
【経営課題とブランド戦略vol.2】
ルイ・ヴィトンのブランド戦略に学ぶ(前編)
- 商品の価値を高めるには -
日本人の5人に1人が持っている、ルイ・ヴィトン。
その保有者数は、2400万人とも言われます。仮に、バッグの平均価格が15万円だとすると、日本の家庭には、3兆6000億円分のルイ・ヴィトン資産が眠っている計算です。世界最高の貯蓄率を誇る日本人も、ことルイ・ヴィトンに関しては、財布の紐が緩くなるようです。実際に、国内で展開している海外ファッション・ブランド企業の中でも、ルイ・ヴィトンの売上額は突出しています。百貨店でも、ルイ・ヴィトンの店舗だけが、なぜか長蛇の列を生む不思議さ。高額な商品にもかかわらず、なぜ、ここまで人々を夢中にさせるのか?そして、なぜ、ルイ・ヴィトンだけ別格な扱いを受けるのか?
いかにして商品の価値を高めるのか、ルイ・ヴィトンのブランド戦略に学びます。
ルイ・ヴィトンのブランド戦略。
それは、プレステージ商品を売るための、究極の戦略と言えます。ルイ・ヴィトンが、今日のような驚異的なブランド力を持つようになったのは、現在の LVMH会長であるベルナール・アルノー氏が、1987年に買収してからになります。それまでの誕生以来130年の歴史は、旅行鞄の専門メーカーとしての歩みであり、今日のファッション・ブランドとしての躍進は、ベルナール・アルノー氏なくては語ることができません。つまり、近年のブランド戦略の成功の鍵は、彼の頭脳の中にあったと言えます。
ベルナール・アルノー氏は、著書(*1)の中でこう言っています。
「戦略があればこそ進むべき方向がわかり、チャンスがあるかないかを見抜くことができます。市場でのポジションを知らずに、ランクを上げることができるでしょうか」
今回は、ルイ・ヴィトンのブランド戦略の特徴を、ブランド戦略の3大要素である『プレミアム』、『コミュニケーション』、『ロイヤリティ』の視点から考察したいと思います。
〈プレミアム〉
高価格の妥当性を与えるブレミアムの表現
ルイ・ヴィトンの製品は、その丁寧な手仕事と、頑丈な作りに定評があります。上質な皮革と、優れた職人技。そして、何十項目にもおよぶ耐久テストが、この評判を支えています。 しかし、ここまでの話であれば、近頃のファッション・ブランドも同様の取り組みをしているはずです。ルイ・ヴィトンのブランド戦略のうまさは、そのクラフトマンシップへのこだわりを、余すところなく表現しているところにあります。
ルイ・ヴィトンのウェブサイトを見てみましょう。レザーグッズ、シューズ、ウォッチ、ジュエリーなどの製造工程が、延々と動画で見ることができます。熟練の職人達が、一つ一つの製品を手間をかけて作り上げて行くプロセスが、詳細に表現されているのです。このクラフトマンシップに対する独自のこだわりが、高価格の妥当性を与えています。つまり、「そこまで丁寧に作り上げているのであれば、多少値段が高いのもうなずける」という納得感です。このこだわりが、ルイ・ヴィトン製品の世界観を形成しており、購入者はその世界観を含めて製品を購入しているのです。だから、決して高くはない。これが、明らかに製品価値以上のプレミアムを与えています。
つまり、企業のブランド戦略においても、単に素晴らしい製品を作って売るだけでなく、そのこだわりのプロセスを余すところなく伝えるところに、プレミアム形成のヒントがあります。顧客は、その商品が本当に良いものだと感じていても、誰かにその通りだと言ってもらいたいものです。まずは、企業側がその役目を果たし、こだわりのプロセスを伝えることが重要です。
徹底してブランドのプレミアムを守る
ルイ・ヴィトンは、値引きをしません。
値引きをしないどころか、セールもありません。百貨店のポイントも付きません。従業員向けの特別価格も存在しません。外商もなく、直営店舗以外で商品を買うことはできません。このように、徹底してブランドのプレミアムを守っています。
ルイ・ヴィトンが、セールをせずに済む理由は、商品が不良在庫にならないからです。ルイ・ヴィトンの商品の大部分は、『定番』の旅行鞄やバッグです。代表格であるモノグラムは、100年もの歴史があります。その間、形状の進化はありますが、本質は何一つ変わっていないのです。したがって、今年売れ残ったとしても、来年売れば良いことであり、無理に在庫処分をする必要がないのです。これは、同じファッションブランドでも、コレクションを軸に展開するブランドと比較すると、大きな経営的なアドバンテージがあります。
また、このことは、顧客側にも大きなメリットがあります。何年経っても古さが出ませんから、顧客は長く使えます。長く使えば、愛着が湧き、その良さが評判として広がります。そしてまた、ルイ・ヴィトンの定番商品を買う人が増える。このようなサイクルは、ブランドへの忠誠心を生み、顧客ロイヤリティの向上へとつながります。
常にフレッシュなブランド像をつくる
ルイ・ヴィトンからは、毎年、新作が発表されます。
それは、時に、デザインを越えたアートな作品であり、人々の憧れを集めます。しかし、ルイ・ヴィトンの売上構成の大部分を占める製品は、先述の通り、このような新作ではなく、モノグラムなどの昔からある『定番』シリーズです。つまり、新作で目を引かれた顧客は、いざ購入する時点になると、結局のところ汎用性がある定番商品を買っている、ということになります。これは、良く出来たビジネスモデルです。
仮に、ルイ・ヴィトンが毎年同じように定番シリーズだけを売っていたとしたら、徐々にブランドは忘れられて行くでしょう。顧客は誰でも、古びたイメージよりも、新鮮なイメージに興味を抱くものです。フレッシュなブランド像は、人々にパッションを与え、ブランドへの注目を維持する役割を果たします。
この手法は、企業のブランド戦略にも応用することができます。新商品を開発したら、それですぐに収益を立つことは期待せず、まずは従来の商品販売に貢献させる。それを戦略に織り込んでおくのです。そして、毎年、何かしらの新商品を出して、顧客の興味をこちらに向けておくことが重要です。これは、企業のブランドを忘れさせないだけでなく、その存在を常にフレッシュで先進的なイメージとして、顧客の心に印象づけることができます。
次回は、ルイ・ヴィトンのブランド戦略を、『コミュニケーション』の視点から見てみましょう。
(*1)参考文献:ベルナール・アルノー 『ブランド帝国 LVMH を創った男 ベルナール・アルノー語る』 日経BP社 2003年
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