
ハルデザインコンサルティング株式会社
代表取締役社長兼CEO
宮崎 晴人
HARU MIYAZAKI
ブランド戦略コンサルタント。主な専門分野は企業、商品、人材、CSR、IR。「ブランドによる経営課題の解決」がテーマ。米国シアトルの高校卒業後、慶應義塾大学環境情報学部卒業。1999年にハルデザインコンサルティング株式会社を設立。
【実行戦略を練る vol.2】
ハイアット・グループのブランド戦略
ハイアットの躍進が、続いています。
世界44カ国に高級ホテルを展開する、グローバル・ハイアット・コーポレーション(米国シカゴ)。そのホテル数は、現在735軒。この5年間で、2倍以上に伸ばした巨大急成長企業です。
この快進撃の裏には、立て続けに買収した他のホテルチェーンの存在があります。2004年、ハイアットは、中級スイートルーム・ホテルを展開する AmeriSuites (アメリスイーツ)を買収。2005年には、同業態のSummerfield Suites (サマーフィールドスイーツ)を取得しました。ともに売り手は、あの有名なブラックストーン・グループ。先日、ヒルトンホテル・コーポレーションを3兆 2000億円でM&Aに成功した、巨大バイアウト・ファンドです。
今、ホテル業界では、M&Aが活発化しています。
今年2月、フォーシーズンズ・ホテルは、ビル・ゲイツ氏とサウジのアルワリード王子の投資会社に4200億円で買収されました。4月には、全日空がグループの13ホテルを2813億円でモルガンスタンレーに売却。7月には、先のブラックストーンによるヒルトン買収と、2007年が終わらないうちに3件もの大型M&Aが行われました。
まるでトランプの手札を取り替えるような、ファンドを巻き込んだ買収劇は、今後もホテル業界でM&Aが続くことを意味しています。その背景には、全世界の経済成長率とともに堅調に伸びるホテル需要と、各ホテルチェーン間で繰り広げられる熾烈な競争により、スケールメリットと同時に、顧客の心をつかむ近代的なブランド・イメージの必要性が、急速な高まった点があげられます。
日本国内でも、施設の老朽化や、サービスの近代化に、明確な対策を打てないホテルは、次々と姿を消しています。
そして、それをグローバル・ブランドが拾う構図があります。これは、もはや、高級ホテル業界は、小規模な経営では、太刀打ちできないほど競争が激しくなっていることを示しています。世界的な顧客ニーズを研究し、近代的なサービスを提供するグローバル・ブランドは、国内ホテルの実力を遥かに凌ぐ、知的戦略を持っているのです。
さて、大手ホテルチェーンのブランド戦略には、買収したホテルをポートフォリオ化するケースと、リ・ブランド化するケースの、2通りの方法があります。ハイアット・グループのブランド戦略は、後者のリ・ブランド戦略です。
リ・ブランドとは、買収したホテルの元々のブランドを捨て、ハイアットを冠したホテルとしてブランドの再生を行う戦略です。先述のAmeriSuites とSummerfield Suites は、ともに「HYATT PLACE」ブランドとして生まれ変わりました。日本国内でも、旧京都パークホテルを改装した「ハイアット リージェンシー京都」や、昨年12月にオープンした「ハイアット リージェンシー 箱根 リゾート&スパ」などが、記憶に新しいケースです。
一方、ハイアット・グループとライバル関係にあるスターウッド・ホテル&リゾートは、ポートフォリオ戦略を取っています。傘下には、ウェスティン、シェラトン、ル・メリディアンなど、8つの高級ホテルブランドが肩を並べています。グループの総ホテル数は、871軒と、ほぼハイアットと同規模です。ポートフォリオ戦略は、リ・ブランドのコストがかからない反面、傘下のブランド間で差別化が十分出来ない事態が懸念されます。正直なところ、私の目には、ウェスティンとシェラトンのブランドの差があまりないように映ります。
735軒全てが同じ名を冠する、ハイアットのシングルブランド方式は、ブランド認知の面からも有利です。しかし、今後、事業拡大のスピードを高めるためには、どこかの時点でポートフォリオ戦略に移行する必要があるでしょう。先述のブラックストーンは、ヒルトン買収で2800軒ものホテルを手に入れましたが、ハイアットが過去2回、ブラックストーンから買い入れている事実が示すように、今後、ヒルトンホテルとハイアットの間にまた動きがあっても不思議ではありません。もしくは、3大ホテルの一角であるカールソンが、ヒルトンを狙う可能性もあります。カールソンは、従業員数17万人の規模にも関わらず、未上場企業であり、株式公開をてこにヒルトンを手に入れることができるはずです。
いずれの場合にせよ、ホテル業界は、ポートフォリオ戦略へ移行するトレンドがあるようです。シングルブランドで強みを活かしたハイアットが、ポートフォリオ戦略を取った場合、どのようなブランドが誕生するのか、非常に注目したいところです。
なお、ハイアット・グループは、今年9月ロンドンに新ブランド「アンダーズ(ANDAZ)」をオープンし、これがポートフォリオ戦略の第一号となる予定です。
【参考情報】
〈3大ホテル・グループ〉
ヒルトンホテル・コーポレーション 2800軒
マリオット・インターナショナル 2900軒
カールソン・カンパニーズ 1600軒
〈その他のホテル・グループ〉
スターウッド・ホテル&リゾート 871軒
グローバル・ハイアット・コーポレーション 735軒
フォーシーズンズ・ホテル 74軒
リッツカールトン 66軒 (マリオット傘下)
フェアモント・ホテル 50軒
ローズウッド・ホテル 22軒
マンダリン・オリエンタル 20軒


