BUSINESS REVIEW
トレンドにはリズムがある
宮崎晴人

ハルデザインコンサルティング株式会社
代表取締役社長兼CEO
宮崎 晴人
HARU MIYAZAKI

ブランド戦略コンサルタント。主な専門分野は企業、商品、人材、CSR、IR。「ブランドによる経営課題の解決」がテーマ。米国シアトルの高校卒業後、慶應義塾大学環境情報学部卒業。1999年にハルデザインコンサルティング株式会社を設立。

【トレンドを読む vol.3】
トレンドにはリズムがある
- 循環するイノベーション -

ダイソンをご存知でしょうか?
変わった色と形をした、紙パックがいらない掃除機です。今でこそ他社メーカーも同じようなデザインになってきたので目立ちませんが、10年前に発売された当時は画期的な出来事でした。何しろ掃除機と言えば「ゴミを吸う機械」ですので飾り気などありませんでした。ダイソンの楽しげなデザインは、より豊かな生活を夢見る当時の消費者の心をしっかりと掴むことになり、後の掃除機の新しいトレンドを築くことになりました。

さて、2回にわたりトレンドのお話をしてまいりましたが、最後にトレンドにはリズムがあることをお話ししたいと思います。このリズムを見分けることにより、未来のトレンドがある程度予測できると考えられています。予測できれば、それに合わせてアプローチを考えることも可能でしょう。

トレンドには大きく分けて2種類のリズムがあります。

1)循環するトレンド
【イノベーション】→【類似品】→【発展版】→【さらなるイノベーション】

先ほどのダイソンの話に戻りましょう。
ダイソンの掃除機は間違いなく【イノベーション】でした。掃除機に新しい価値観を与えたのです。それ以前の掃除機はどうでしょう。どれもこれも同じように素っ気ない機械でした。ダイソンは掃除機業界に新しいステージを作ったのです。
さて、デザイン性の高いダイソンが日本で発売され人気が集まると、3ヶ月もせずに家電メーカーからダイソンに似たようなデザイン掃除機が出てきました。このあたり家電王国日本の企業の行動は驚くほど素早い。売れる新基準ができたので、ここぞとばかりに売って行こうということです。これが【類似品】マーケットの段階になります。
さて、日本メーカーの攻勢を受けて、ダイソンはさらに独自の技術を向上させ、商品ラインアップの充実を行いました。日本メーカーも負けてはいませんので、商品改善をします。これが【発展版】の段階です。ここまで競争が進行すると、マーケットには高品質な商品があふれ、性能比もそれほど変わらなくなります。消費者にとっては、どれを買っても満足する製品がたくさんあります。したがって、ここからさらに性能を上げても、消費者が飛びつくような商品にはならない状況です。こうなりますと、マーケットを活性化する何か新しい起爆剤的な発想が必要になります。これが【さらなるイノベーション】の段階です。今後ダイソンが仕掛けた掃除機トレンドは、近い将来【さらなるイノベーション】が起こることでしょう。

iPodで有名なアップル社も同様の循環トレンドを描いています。アップル社が優れている点は、自らこの循環トレンドを計画的に先導し、ランバル他社がこのトレンドに乗る前に次の段階へトレンドを進ませる力があることです。これによりライバル社は今ひとつしっかりとトレンドに乗れなくなり、一番トレンドの恩恵を受けるのはアップル社のみになります。
では見てみましょう。
まず、アップル社復活のきっかけとなったiMacは、素っ気ないPCにカラフルなデザインを採用し、業界に【イノベーション】を起こしました。するとこれに他社メーカーも追随し、PC業界は一気にデザイン重視のトレンドに進みました。あの合理的で有名なデル社でさえデザインを重視しましたから、あきらかに【類似品】の段階に入ったのです。その後、TVチューナーやDVD内蔵など、各メーカーは性能向上の競争に入り、トレンド段階は【発展版】になりました。差別化が難しくなった混沌とした業界に、【さらなるイノベーション】を起こしたのがiPodです。また、トレンドが最初から始まることになり、慌てて他社メーカーも追随します。しかし、今回のアップル社は上手でした。数ヶ月もしないうちに小型iPodをリリース。その後も3ヶ月おきに新しい製品を繰り出し、他社メーカーの【類似品】を極力押さえ込むことに成功します。トレンドの性質を最大限利用し、完全にマーケットを主導するアップル社には、誰も追随できなくなります。CEOのスティーブ・ジョブスが天才と言われる理由でしょう。

2)逆に進むトレンド

もう一つのリズムは、逆に進むトレンドです。つまり、主流トレンドに対して反対の方向に進むもう一つのトレンドです。
例えば、世の中が便利になり、「時間の効率化」が主流トレンドになる一方、スローライフや癒し、リラクゼーションなど、あえて無駄に時間をかけることが尊いとされる傾向が逆トレンドです。このような現象はいたるところで起こっています。数百万円もするハンドメイドの時計が飛ぶように売れるなどは、完全に技術進歩の流れとは逆行しており、合理的には理解しがたい現象です。しかし、人間は自ら逆トレンドを描くことにより、精神面でのバランスを取っているのかも知れません。
このように、トレンドには主流トレンドと逆トレンドの2種類あり、ビジネスとしてどちらを選択するのも自由です。
主流トレンドは、そのマーケットも巨大ですが、競争も激しいものです。参加するには資金力が必要であり、かつ利益を出すにはある程度の事業規模が重要です。一方、逆トレンドは隠れマーケットであるため、ニッチビジネスにはもってこいです。資金力もいらず、わずかな規模でも利幅が確保できます。弱点としては、主流トレンドと違って、ある意味布教活動をしないと人々が振り向いてくれない点があげられます。また、参加してからマーケットサイズが思ったよりも小さいことが判明することもあります。
いずれの場合も勝算はあります。しかし万一、主流トレンドでも逆トレンドでもないビジネスに参加した場合、資金を損失する確率は飛躍的に高まります。それは、やはりトレンドとは顧客の欲求が作り出す流れであり、顧客の欲求がないことをビジネスにすれば失敗するものです。したがって、トレンドを読むということは、この瞬間の顧客の心を理解し、未来に向けてビジネスをどう発展させて行くのかを左右させる、重要な仕事と言えます。例えるならば、それは、自身が進むべき「道」を見つけることと同じなのです。

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