
ハルデザインコンサルティング株式会社
代表取締役社長兼CEO
宮崎 晴人
HARU MIYAZAKI
ブランド戦略コンサルタント。主な専門分野は企業、商品、人材、CSR、IR。「ブランドによる経営課題の解決」がテーマ。米国シアトルの高校卒業後、慶應義塾大学環境情報学部卒業。1999年にハルデザインコンサルティング株式会社を設立。
【トレンドを読む vol.2】
トレンドの勝者と敗者
世界のワイン業界にもメガトレンドがあります。
ワインの話をすると、「HARUさんまたワインの話をしているよ」とお客様の中には呆れる方もいるでしょうが、今回はマーケティングの話なのでお付き合いください。
世界のワインビジネスには、モダンワインのメガトレンドが来ています。
モダンワインとは、最先端の醸造手法の研究と、醸造設備のハイテク化により、これまでコントロールが難しかったワインの味や品質を、ある程度制御できるようになった結果生まれたワインです。その特長は、華やかで味が濃く、酸味が少なく、力強く余韻が長い、現代人が飲んで素直においしいと思う味を実現しています。このトレンドの仕掛人はいつものごとくアメリカ。その代表がカリフォルニアワインです。特にカリフォルニア大学デービス校の醸造学科は有名で、今日のモダンワイントレンドの震源地になっています。
さて、このトレンドに対して一つの議論が巻き起こっています。
自然の恵みの結晶とも言えるワインの品質を、安易に人間がコントロールして良いのか?近代化はフランスで長年育んできたワイン文化を崩壊させようとしているのではないか?というものです。もちろん論争をしかけたのは、伝統的なクラシックな手法を堅持するワイナリーです。彼らは、頑固にもワインはただの飲み物ではない、文化なのだと言います。
しかし、消費者の意見は単純でした。今までよりもおいしいワインが飲めるなら、何が悪いのかと。消費者は「文化」を飲んでいなかったのです。
ここで勝ち組と負け組がはっきりしました。メガトレンドに乗っている人=カリフォルニアワイン。乗り遅れた人(もしくは頑固に乗らなかった人)=伝統にこだわったワイン。この事例が示すように、トレンドはカリフォルニアが仕掛けましたが、その背景には顧客のニーズ、つまり長年堅くて酸っぱいワインに誰もが不満があり、できれば誰が飲んでもおいしいワインというのはないものだろうか?という潜在的な欲求があったから一気に加速できたのです。したがって、トレンドは勝手気ままに仕掛人が作るものではなく、顧客の声を束ねることにより見えて来る欲求の傾向なのです。
今後ワイン業界がどうなっていくかは、もう想像がつくでしょう。
では、トレンドに気づくためにはどうしたら良いか?
それは、トレンドに乗れなかった人の失敗要因を見ると参考になります。
1)トレンドが苦手な人は、顧客視点を忘れている
トレンドと言うと、何やら浮ついた雲に乗るような気分で、硬派な人は肌に合わないこともあるでしょう。きっと伝統的なワイナリーも、モダンワインが軟派に見えたのでしょう。
私もマーケティングをやっている人間としては硬派な方で、一過性や短期的な方法よりも、本質的な視点を好みます。ただ、本質的な視点と頑固は別です。頑固になると他の意見が耳に入りません。世の中がどう動いているのか?顧客は何を求めているのか?そんなことよりも、自身の流儀を貫きます。職人気質とプロフェッショナルは違います。職人は製品に完璧さを求める一方、プロフェッショナルはお客様の満足に完璧さを求めます。今日、多くの老舗企業が収益力を落とし、再建が必要になる背景には、伝統と歴史を重んじるがばかりに、刻々と変化する顧客ニーズを見失い、結果的に意識のギャップが生じてしまうことも一因でしょう。物不足の時代と、精神満足を求める現代は違います。ビジネスとは顧客あってのことですから、私たちビジネスマンは職人気質よりもプロフェッショナルを目指すべきなのでしょう。
2)トレンドが苦手な人は、自身を変えるのが怖い
さて、プロフェッショナルの最終目的は、お客様の満足です。そこに完璧さを求めるのであれば、プロフェッショナルは喜んで自身を変化させます。その心の柔軟さが重要です。世の中は刻々と変化をしていまから、顧客ニーズも去年と今年は違います。したがって、毎年自分自身を変化させる必要があるのですが、このことが億劫になったり、臆病になって逃げたいと感じる場合があります。怖さのあまり、守りに入り、伝統的ワイナリーのようにますます頑固になる場合もあります。しかし、そうすることで顧客に受け入れられるのであれば良いのですが、通常は顧客との距離がますます開くばかりです。
つまり、顧客の目で物事を考えれば、ニーズが分かり、そのニーズを束ねるとトレンドが見えてきます。企業はこのトレンドに合わせてアプローチすればぴったりとうまく行くのですが、たまにトレンドに合わせるには、これまでの自身を改造する必要があります。製品そのももの改造なら簡単ですが、顧客対応窓口の新規整備や、組織全体の改革が必要になると面倒で逃げたくなります。トレンドが苦手な人は、トレンドに合わせて自分自身を変えることが苦手の原因であり、結果顧客の視点を見て見ぬふりをしてしまいます。
伝統的なワイナリーも、世界でモダンワインにニーズが集まっていることに、薄々理解はしていたでしょう。結果、自身を変えることへの恐怖心が、すべてのチャンスを奪ってしまったと言えます。したがって、トレンドに乗るには、マーケティング調査だけでなく、その後の自己改革の覚悟も必要になってくるのです。
余談ですが、ワインは熟成するためにコルクを通して息をしている、という話がありますが、あれは嘘のようです。科学的には完全密閉した方が熟成が良く、合理主義なアメリカでは一時スクリューキャップに切り替えるブームがありました。が、消費者から「ワインの情緒がない」との意見から、またコルクに戻したそうです。結果的に科学よりも文化を優先させたこのケースは、必ずしも正しい事がトレンドになるわけではなく、あくまで顧客のニーズによるのだということを物語っています。


