



グループの5つ目の事業として、野菜工場を建設し、生産事業に進出した、株式会社スプレッドの稲田社長。その強いリーダーシップからは想像できないほど、温和な性格と穏やかな口調で話す。
株式会社スプレッド 「ベジタス」
http://www.vege-tus.com/
京都から国内初の野菜ブランドをつくる
宮崎:
まず最初に、稲田社長が野菜工場を始めるきっかけを、お聞きしてもよろしいですか?
稲田社長:
私が生鮮食料品の業界に入った時期が、今から20年前。主に流通の仕事でした。
工場から出荷される製品と違い、野菜というものは、非常にアンバランスな商品です。どうアンバランスかと言うと、天候不順によって、消費者に必要な野菜が届かなかったり、一方で、豊作になると野菜を廃棄しなくてはならなくなるなど、需要と供給のバランスが安定していない。こういった要件の中で相場を形成して、流通していますから、生産側の都合で、野菜不足になったり、値段が高くなったりするわけです。消費者がそれを受け入れざるを得ない状況に疑問を感じていました。
宮崎:
それで、今回のブランディングですが、どの時点でお考えになったのでしょうか?
稲田社長:
まず、野菜の世界で、しっかりしたブランドとして、価値の高いものを消費者に届ける野菜はありません。京都には『京野菜』というブランド野菜がありますが、これは地域のブランドであって、ひとつひとつ個々の野菜に属するブランドとは少し違います。今回の事業は、野菜というものを従来の『材料』ではなくて、ひとつの『製品』として確立することがポイントでした。それを行うに当たって、ブランディングが必要であるという結論に至ったのです。![]()

工場野菜のプロモーションと営業の責任を一手に引き受ける矢島氏。この仕事を通して、生産側と消費者をつなぐ、新しい形をつくりたいと考えている。

ハルデザインコンサルティングの宮崎は、今回、スプレッド社と商品ブランド「ベジタス」で行った、ブランド戦略企画のポイントを話した。
ブランディングの本質に触れて
宮崎:
ブランディングというものに対して、どのようなイメージをお持ちでしたか?
稲田社長:
当初は、ネーミングだとか、消費者から見た使い易さや利便性を中心に考えていました。実際に今回ブランディングをお願いして、自分たちが考えていたよりも、もっと深く、ブランドができるまでには色々な要素が必要であると感じました。
また、客観的な調査や分析を行うことによって、社内で話し合っても思いつかないキーワードを発見でき、非常に良かったと思っています。
宮崎:
確かにブランドと言うと、いわゆる目に見えるもの、例えばネーミングや、ロゴマークを連想する方が多いのですが、ブランディングというのはブランド・アイデンティティを作って行く作業なのですね。ネーミングやロゴマークなどのアウトプットは、アイデンティティがあってこそ、意味をなすものなのです。したがって、ブランドの軸となるアイデンティティをつくる訳ですから、非常に奥が深い取り組みなのです。
稲田社長:そうですね。
宮崎:
また、アイデンティティをつくる上で重要なことは、他社ができるようなことをアイデンティティにしても、すぐに真似されますので、差別化にはならないという点でしたね。ですから、自分たちにしかできないことをアイデンティティとすることによって、ブランドとして威力を持って来るということです。ただ、他社が容易に真似できないということは、自社が築き上げる道のりもハードであると言えます。
稲田社長:確かにハードですね。(笑)![]()

総事業費8億5000万円を投資して完成した、京都にある亀岡プラント工場。第1工場の裏手には、第2工場の敷地も確保されている。
宮崎:
しかし、ブランドというものは、いずれにしても明日すぐにできるものではありませんから、長い時間をかけることで厚みが出てくる訳です。仮にライバルがこのブランドの厚みに気づいた時には、すでに何年も経過していますから、そこから真似をし始めても追いつくことはないのです。常にその年数分の厚みをリードして進むことになるのです。
稲田社長:
そういう意味では、スプレッドは『人』や『人との関係』を大切にしていますから、そういうことにフォーカスしたブランド・アイデンティティであっても良い訳ですね。
宮崎:
その通りです。『人との関係』を大切にする姿勢は、企業文化であり、まさにブランド・アイデンティティであると言えます。例えば、人を大切にしない会社があったとして、その会社が明日から人を大切にすると決めても、うまくいかないわけです。何年も文化として蓄積したアイデンティティは、急には変えられないのです。
稲田社長:そうですね。
宮崎:
だから、早い段階でブランド・アイデンティティを定め、時間をかけて育て上げるという戦略が重要だと思います。

